両岸に岩壁がせまる中津峡は、秩父帯(約1億5000万年前・中生代ジュラ紀)の砂岩やチャートなどに刻まれた深いV字谷です。中津川沿いの約10kmの渓谷である中津峡は埼玉県の指定名勝であり、奥秩父を代表する紅葉スポットになっています。高さ100mにも及ぶ断崖絶壁や奇岩が連なる渓谷を、赤や黄色に染まった木々が彩る様はまさに圧巻です。
中津川の谷沿いには、秩父帯と四万十帯の境の白泰断層(はくたいだんそう)が走っており、尾根や谷の方向はこの断層の影響を受けています。白泰(はくたい)の尾根がスギやヒノキの植林が進んでいるのに比べ、中津川流域はカエデなどの天然林が残っています。これは、この谷が硬い岩石でできているため侵食に強く、険しい地形ゆえに人の手を拒み、植林などがされなかったことによるものです。
カエデは見事な紅葉で人の目を楽しませることのほかにも、樹液をメープルシロップに加工し、それを利用したお菓子や飲み物など、秩父の新たな特産品として注目を集めています。
持桶トンネル手前にある持桶女郎もみじの赤い色は特に印象的で、中津峡の紅葉を代表する名所。樹齢約300年以上ともいわれるこの「女郎もみじ」の名の由来には、こんな逸話が伝えられています。
ある昔のこと、紅葉が盛りを迎えた季節に、この地にあでやかな二人の男女が突然現れた。紅葉の美しさに見惚れ、手持ちの酒ですっかり酔いしれると興じて舞い踊ったという。ふと村人が気が付くともう二人はいなくなっていたが、そこにあった二本のもみじが二人のあでやかな姿に重なり、以来、「女郎もみじ」と呼ぶようになったという。