秩父三社のひとつである秩父神社は、およそ二千百有余年の歴史を持つ県内屈指の古社です。ユネスコ無形文化遺産になった「秩父夜祭」は秩父神社の例大祭であり、毎年12月2、3日に行われ多くの人で賑わいを見せます。徳川家康の寄進を受けた権現造りの社殿も美しく、「つなぎの龍」、「子育ての虎」などの彫刻は、日光東照宮「眠り猫」で知られる名工・左甚五郎の作と伝わっています。そんな秩父神社の鎮守の森は、古くから「柞の杜」(ははそのもり)と呼ばれ、人々に親しまれてきました。
享和2年(1802年)に書かれた秩父妙見宮縁起にも「柞の杜」とある通り、「柞」はミズナラの繁茂した神聖な杜であったと伝えられています。文化・文政期(1804年~1829年)に編纂された新編武蔵風土記巻十妙見社の条には「社地11,484坪」と記され、古くは広大な面積が森であったことがわかっています。「母巣の森」とも記され、かつては県指定天然記念物の鳥「ブッポウソウ」の生息地となっていました。
秩父の中心部にある神社にもかかわらず、今も鎮守の森が周りの雑踏を隔てて静謐な空間を守っています。