秩父盆地を取り巻く山のなかで、ひときわ低いところが、山中白亜系(山中層群)と呼ばれる地層が広がる長野県佐久穂町まで続く凹地帯の谷です。古くからの街道もここを通り、志賀坂峠を越えて上州・信州と行き来していました。黒部から東京への送電線もこの地域を通過し、秩父鉱山の鉱石を運搬する索道もこの谷を通って運び出されていました。
志賀坂トンネルの入り口に立って東を見ると山中白亜系の谷が一望でき、その先に広がる秩父盆地やその南側の武甲山を見ることができます。
ここの地層は、恐竜時代であった約1.3億~1億年前(中生代白亜紀)のもので、両側にそびえる両神山や二子山はそれより古い中生代ジュラ紀の地層です。峠をこえて群馬県側に下った瀬林(せばやし)という地区には波の跡(漣痕(れんこん))や恐竜の足跡があります。付近では三角貝などの化石が見つかります。
2018年11月、化石探索による地域活性化に取り組む小鹿野町地域振興協会によって、この山中白亜系の地層において白亜紀の軟体動物の一種である「オウムガイ」の雌型(めがた)化石(オウムガイそのものではなく、周りの型)が発見されました。国内でのオウムガイの化石の発見例は北海道や岩手県などで数例見られるのみで、大変貴重なものです。近い将来、埼玉県側から恐竜の化石が発掘されるかもしれません。